My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)

21.アルコス・デ・ラ・フロンテーラ(Arcos.de.la.Frontera)


【はじめに】

アルコス・デ・ラ・フロンテーラ(Arcos de la Frontere)は、大西洋岸の港町 カディス(Cadiz)から高速国道A-4(アンダルシア道路)で、シェリー酒の故郷で あるへレス・デ・ラ・フロンテーラ(Jerez de la Frontera)を右折し国道A-384 を車で約2時間30分ほどの距離に位置しています。

アルコス・デ・ラ・フロンテーラは、アンダルシア州カディス県の観光ルート の一つである「白い村街道」(Ruta de los Pueblos Blancos)の玄関口にあたり ます。

・「白い村街道」(Ruta de los Pueblos Blancos)
   「白い村街道」は、カディス県内の17ヶ所の白い村を結んだ観光ルートで、
    主な白い村には下記の村が上げられます。
    ・アルコス・デ・ラ・フロンテーラ(Arcos de la Frontere)
    ・グラサレマ(Grazalema)
    ・オルベラ(Olvera)
    ・セテニール・デ・ラス・ボデガス(Setenil de las Bodegas)
    ・サアーラ・デ・ラ・シエラ(Zahara de la Sierra)

アルコス・デ・ラ・フロンテーラは、オリーブやオレンジなどの栽培に観光を主な産業とする人口約28,000人の白い村(街)です。


【断崖絶壁上の街】

アルコス・デ・ラ・フロンテーラは、グアダレーテ川(Rio Guadarete)の流れに三方を囲まれた台地上にひらけています。

旧市街地の東側半周は、高さ約150mの断崖絶壁の上にあり旧市街地へは、西側の急峻な坂道を登り訪ねることになります。

<断崖絶壁の上の街>


アルコス・デ・ラ・フロンテーラは、先回訪ねました白い村 カルモナ(Carmona)と同様に、豊穰の地で平原の台地に位置する地理的立地上の優位性により、古くからの政治や覇権上の要所となり栄えた街です。

そして、紀元前からの定住の足跡をとどめ、ローマ帝国もこの地に小さな要塞を築いてもいます。

アルコス・デ・ラ・フロンテーラは、7-8世紀にかけて、イスラム教の開祖ムハマド(Muhammado:570-632年)を継承する指導者ムアーウィヤ(Muawiya:603-680年)により、首都をシリアのダマスカスに置くイスラム勢力最初の王朝となったウマイア王朝(サラセン帝国)が成立し、この政権下の領有地となります。

この頃、ローマ帝国時代に築かれた城塞なども拡張整備されますが、レコンキスタ(国土回復運動)により13世紀に、イスラム勢力の街がカスティーリャ王アルフォンソ10世(Alfonso]el Sabio:1221-1284年)によりカトリック勢力に奪還されます。

境界を表すフロンテーラを街の名に冠すこの街は、まさにイスラムとカトリックの覇権争いの前線の地としての歴史を秘めています。

今日見られる中世の面影をとどめる建物の多くは、イスラム時代に築かれたモスクなどが15世紀以降に改築されたものです。

主な建物で名所ともなっているものに、次の施設があげれます。

・アルコス城(15世紀の城)
 Castillo de Arcos (15th-century castle)

・サンタ.マリア.デ.ラ.アスンシオン教会(16-18世紀にかけて建設された教会)
 Iglesia Parroquial de Santa Maria de la Asuncion (16-18th centuries)

・サン.ペドロ教会(16-18世紀の教会)
 Church of San Pedro (16-18th centuries)

・オゥガスチィン修道院(16-17世紀の修道院)
 Monasterio de Agustin (16-17th centuries)

・市議会(17世紀の市役所)
 Ayuntamiento (17th city hall)

・代官屋敷(15世紀)→司教館(16-17世紀)→パラドール(19世紀)
 Una mansion del administrador principal(15th centuries)
 →El edificio del Obispo(16-17 th centuries)
 →Parador de la Arcos de la Frotara(19th centuries)

そして、これらの建物などが点在する旧市街地の全域が国の重要文化財地域に指定され ています。


【特徴ある中世の街】

白い壁の続く西側からの急峻な坂道を登りきると、崖の上のカビルド広場(Plaza del Caildo)にたどり着きます。

<坂道の街>


カビルド広場の正面には、サンタ.マリア.デ.ラ.アスンシオン教会が、そして断崖絶壁に突き出た展望台からは、かつての代官屋敷(現在のパラドール)やサン.ペドロ教会をはじ め街を一望することができます。

<サンタ.マリア.デ.ラ.アスンシオン教会 >


<崖の上のサン.ペドロ教会>


これら建物の多くは、ムデハル様式と呼ばれるスペイン固有の特徴を持つ建築様式によるもので、スペインらしさアルコス・デ・ラ・フロンテーラらしさの景観を印象づける建物 ともなっています。

・ムデハル様式(Estilo Mudejar)
  スペインの建築様式で、レコンキスタの後にイスラムの建築様式と
  カトリックの建築様式とが融合してうまれたスペイン固有の建築様式。


【静かに流れる時間】

旧市街地の中は、細い迷路の白壁の路地が続き車が走っていなければ、中世の街に迷い込んだかのようにさえ思えます。

数千年に及ぶ歴史の中で覇権争いの前線であったアルコス・デ・ラ・フロンテーラの街は、現在 平和で静かな時間が流れ、中世の面影をとどめるスペインを代表する白い村(街) です。

住む人の手で毎年丹念に石灰が塗られる白壁に、窓辺に飾られるゼラニュームなどの花々 は、人の思いとぬくもりを実感させてもくれます私の好きな場所でもあります。

<毎年塗られる石灰の白壁>




【参考図書】
・「南スペイン.アンダルシアの風景」川成洋.坂東省次 編 丸善(2005年)
・「Carmona」カルモナ観光パンフレット(2009年)
・「図説 スペインの歴史」川成洋 著、宮本雅弘 写真 河出書房出版(1999年)
・「FIGARO」スペインとイタリアの小さな町 アンダルシアとトスカーナ
  阪急コミュニケーション(2009年)






【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

新連載「My Favorite Travels And Places(私の好きな旅と場所)は
ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。