My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)

23.サンルーカル デ バラメーダ(Sanlúcar de Barrameda)

その2. シェリー酒の里 サンルーカル デ バラメーダ



【はじめに】

2回目の今回は、シェリー酒(葡萄酒)の里 サンルーカル デ バラメーダを訪ねます。

英語ではシェリー(Sherry)ですが、産地のスペインではビノ デ ヘレス(Vino de Jeres)=ヘレスのワインと呼ばれ、世界中の人々に親しまれています。

シェリー酒は、イベリア半島アンダルシア西南端に位置するカディス県のエル ブエルト デ サンタマリア(El Puerto de Santa Maria).へレス デ ラ フロンテーラ(Jerez de laFrontera) そしてサンルーカル デ バラメーダ(Sanlúcar de Barrameda)の三つの街を結ぶデルタ(三角)地域で醸造される熟造強化白ワインです。

<アンダルシアとデルタ(三角)地域の位置図>


1931年以降は、EUの原産地呼称統制法によりこの限定地域で、パロミノ種(Palomino).ペドロ ヒメネス種(Pedro Ximenez).モスカルテル種(Moscatel)の三品種の葡萄から醸造されるもののみがシェリー酒と呼ばれることが認められています。


【シェリー酒の歴史】

シェリー酒を醸造する葡萄は、紀元前1100年頃にフェニキア人によってイベリア半島にもたらされたといわれています。

紀元前のローマ時代には、この地で醸造されたワインが、ローマ帝国のほぼ全域にセレット(Seretto=ローマ時代のヘレスの地名)のワインとして流通し知られていたそうです。

711年以降、イベリア半島を支配したイスラム教徒の経典コーランには、禁酒が詠われていますが、保存食としての干し葡萄の栽培や医療用のアルコール(薬用)の確保を図るための醸造は認められており、栽培技術と醸造法は継承されました。

ヘレス一帯は、1264年カスティーリア国王アルフォンソ10世(Alfonso X :1221-1284年)によりカトリック教徒の領地として再び奪還されます。

ワイン愛飲家であった国王アルフォンソ10世は、葡萄畑を持ち自らが栽培をおこなってもいます。

1519年には、マゼラン(Ferdinand Magellan:1480-1521年)がサンルーカル デ バラメ ーダから世界一周の航海に出帆するにあたり、417の皮袋と253の樽にはいったシェリー酒を積み込んでもいます。

<シェリー酒の里.そしてマゼランが出航したサンルーカス デ パラメダの海辺>


シェリー酒が世界に広がるきっかけは、15世紀中期から17世紀の大航海時代の海賊行為と戦乱によるワインの略奪によるといわれています。

1587年のイギリス艦船とスペイン艦船とのカディス湾での海戦で勝利したイギリスのマーティン フロビシャー卿(Martin Frobisher 1535-1594年)らがへレスで略奪した3000樽のシェリー酒を本国に持ち帰り、イギリス宮廷でもてはやされ貴族達を魅了したといわれています。

こうした時代をへて、シェリー酒は、今日最も人気のあるワインの一つとなっています。


【風土に育まれるシェリー酒】

シェリー酒の原料となる葡萄は、約10500haに及ぶデルタ(三角)地域で栽培され、陽の光と潮風を受けて、適度の気温と湿度によって育ちます。

アルバリサ(Albariza)とよばれる粘土と珪土を含む石灰岩質の保水性の高い土壌は、秋から春にかけての降雨を蓄え、葡萄の生育期の夏にかけて水分を供給します。

又、大西洋から吹くポニエンテ(Poniente)と呼ばれる湿気を含んだ季節風は、夏の乾燥をやわらげシェリー酒となる葡萄の果実を育みます。

葡萄の果実は、秋になり柔らかくあまみをもって熟し収穫され、イネ科のエスパルト(Esparto)という植物で編まれたむしろに干され干し葡萄状になって搾汁されます。

<シェリー酒の里.アルコスー デ. ラ. フロンテーラ>



【人と時間に育まれるシェリー酒】

秋から冬にかけて一次発酵が進み、やがて固形物はタンクの底に沈みすんだ白ワインとなります。

アルコール度が11〜12度に達した白ワインは、タンクの表面にフロール(Flor=花)と呼ばれるシェリー酒特有の酵母膜を形成します。

この時点で、以降にアルコール度15度と17度以上に上げるための二種類の白ワインに選別され、オーク(Oak)の樽につめかえられます。

アルコール度15度に調整を図るフィノ(Fino)と呼ばれるシェリー酒は、表面に出来たフロ ール膜により空気が遮断された状態で生物的熟成が図られます。

一方、アルコール度17度以上に調整を図るオロロソ(Oloroso)と呼ばれるシェリー酒は、高いアルコール度により酵母膜のフロールが消え、空気に触れ酸化され物理的熟成が図られます。

フィノとオロロソのそれぞれの原酒は、「ソレラ.システム」(Solera System)という独特の熟成方法で3年から100年以上に及ぶことのある熟成の眠りにつきます。

「ソレラ.システム」(Solera System)とは、新しい原酒を樽の上部から注ぎ、古い原酒が下部に溜まるシステムです。

シェリー酒は、この下部に溜まるものから出荷されます。

醸造法とその熟成法の違いにより「アモンティリヤード」「マンサニージャ」「クリーム」などアルコール度や味わいの異なる25種類に分類され、約1000種類といわれる銘柄のシェリー酒が造られてゆきます。

<シェリー酒の樽>



【魅惑のワイン】

アンダルシアの風土の中で長い時間をかけて独特の醸造法と熟成法から生まれるシェリー酒は、魅惑のワインといえます。

アンダルシアの大地と大西洋の潮風に吹かれて、人と時間に育まれるシェリー酒の里は、私の好きな場所でもあります。





【参考図書】
・「スペインの黄金時代」立石博高・訳 岩波書店(2009年)
・「図説 スペインの歴史」川成洋 著、宮本雅弘 写真 河出書房出版(1999年)
・「FIGARO」スペインとイタリアの小さな町 アンダルシアとトスカーナ
   阪急コミュニケーション (2009年)
・「シェリー酒―知られざるスペイン・ワイン 」中瀬 航也 PHP研究所 エル新書 
   (2003年)




【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

新連載「My Favorite Travels And Places(私の好きな旅と場所)は
ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。