My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)

24.サンルーカル・デ・バラメーダ(Sanlucar de Barrameda)
  その3. ドニャーナ国立公園(Parc National de Donana)



【はじめに】

3回目の今回は、ドニャーナ国立公園を訪ねます。

ドニャーナ国立公園は、アンダルシア州を流れるグアダルキビール川河口の大西洋に面するサンルーカル・デ・バラメーダ一帯の三角州(デルタ地帯)に位置しています。

一帯の三角州は、中世以降王室の狩猟場として人の定住が禁止されていたことから、開発がされずに手つかずの自然が守られ今日にいたっています。

1963年に世界自然保護基金(WWF=World Wide Found for Nature)により6,784haが自然保全地域として指定を受けます。

その後1969年に自然公園指定.1978年に国立公園指定.1982年にラムサール条約に登録されます。

そして1994年に世界遺産(自然遺産)に登録され、2005年にはその範囲が拡張登録されています。

ドニャーナ国立公園の総面積は、約54,000haで周辺の自然保護区等を含めると約73,000haに及ぶスペイン最大の自然地(国立公園.自然公園.自然保護区.自然保全地域等)となっています。


<サンルーカル.デ.バラメーダ周辺>




<ドニャーナ国立公園と保護.保全されている自然地>



【多様な自然と貴重な動植物の楽園】

ドニャーナ国立公園は、地中海性の気候とその範囲が海域.水域.陸域に及び、海.河川.湖沼.ラグーン(潟)等の水面に海岸.河岸.砂浜.砂丘.湿地.湿原.草原.森林等、変化に富む多様性豊かな自然が見られ貴重な動植物の楽園となっています。

そして特徴のある水と緑の自然景観をつくりだしてもいます。

ヨーロッパで最も大きなドニャーナの湿原には、約50万羽のガンやカモをはじめとする、ヨーロッパに棲息するほぼ全種類の約360種の水鳥が越冬のために飛来しています。

又、草原や樹林には、絶滅危惧種でもあるイベリアオオヤマネコやオオフラミンゴ.スペインカタジロワシなどの棲息域ともなっています。

生育する主な植物
 ・広葉ガマ(Broadleaf cattail)
 ・コルク樫(Cork oak)
 ・カラカサ松(Stone pine)
 ・野生種オリーブ(Wild olive)
 ・白岩バラ(White rock rose)
 ・ビャクシン類(Kind of juniperus)
 ・ピスタチオ(Pistachio)

棲息する主な動物
 ・イベリアオオヤマネコ(Iberian Iynx)
 ・スペインカタジロワシ(Spanish imperial Eagle)
 ・ダマシカ(Fallow Deer)
 ・アカシカ(Red Deer)
 ・マングース(Mongoose)
 ・カササギ(Azure winged Magpie)
 ・ヘラサギ(Spoonbill)
 ・ハイイロガン(Graylag Goose)
 ・オオフラミンゴ(Greater Flamingo)
 ・ヨーロッパカメレオン(European Chameleon)

<野生のアカシカ>



<オオフラミンゴのコロニー>



<オオフラミンゴの観察舎>


【適正規模の利用による生態系の保護】

ドニャーナ国立公園の観光とレクレーション利用は、年間約25万人です。

そして公園の利用は、サンルーカル・デ・バラメーダ (Sanlucar de Barrameda)からのクルーズ船と、エル アセブチェ (El Acebuche) からの四輪駆動車によるツアーにハイキングや自然観察のための幾つかのネイチャートレイルに限られています。

<観光客はクルーズ船から上陸し決められたコースに沿って見学します。>



<観察路の木道>


利用者は、設定されたコースやルートをガイドかレンジャーの案内と誘導により見学します。

こうして、国立公園の利用が制約されていることから、適正規模による利用者数が設定され、生態系や自然の景観が保護されています。

<クルーズ船から観察できる野生の牛>


【環境保全と生態系バランスの維持】

一方で、国立公園と自然保護区の周辺地域における、都市化や工業化が及ぼす環境汚染にオリーブ.ブドウ等の農産物へ灌漑用地下水の取水による水位変動、地盤沈下、涵養地下水流帯域変化等が見られ問題となっています。

又、グアダルキビール川支流のAznalcollar鉱山採掘土砂貯留ダムの決壊事故(1998年)や河口の土砂堆積.浚渫等による生態系に及ぼす影響が課題ともされています。

しかしこうした課題に対し、スペイン政府やアンダルシア州をはじめとする行政機関等が 積極的な支援や地下水取水などの規制等により対策が図られています。

又、流失土砂の除去.堆積土砂の浚渫などの対応により自然環境の継承と保全が図られてもいます。

そして、国連による生態系の現況を的確に把握するための、ミレニアム生態系調査(MA=Millennium Ecosystem Assessment)や生物多様性の種の減少を抑制するための国際会議「生物多様性条約国際会議」(COP10=Conference of the Porties10-2010-)等が実施されています。

又、ユネスコ(UNESCO =国際連合教育科学文化機関)による人間と生物圏とのバランスを図るための生物圏保護区の創設などもあわせて、生態系バランスの維持を図る取り組みの国際的な機運も高まっています。

ドニャーナ国立公園は、こうした調査や研究などの取り組みが反映され、貴重な生態系 の維持と生物多様性を守る砦ともなっています。

グアダルキビール川のクルーズ船「レアル・フェルナンド号」(=Buque Real Fernando)の船上で川風に吹かれて、ドニャーナ国立公園を巡る旅は、多くの動植物ともめぐり合える、私の好きな旅でもあり、私の好きな場所でもあります。

:ドニャーナ生物圏保護区は、国立公園にこれまでの自然保護区.自然保全地域.
 世界遺産にラムサール条約の登録地域らが重なって立地しています。


【参考図書】
 ・地球の歩きかた「スペイン」 ダイアモンド社 (2010年)
 ・「Parc National de Donana Vister's Guide」UNESCO World Heritage
  Center(2009年版)
 ・不都合な真実 アル.ゴア著 枝廣淳子訳 ランダムハウス講談社 (2006年)
 ・生物多様性というロジック 及川敬貴著 頸草書房 (2010年)





【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

新連載「My Favorite Travels And Places(私の好きな旅と場所)は
ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。