アート&カルチャー


第156回 静嘉堂文庫美術館
SEIKADO BUNKO ART MUSEUM
(東京都世田谷区)

厳しい寒さもようやく終盤、春の兆を感じる頃となりました。

ほのかに香る梅の花にほっと一息、3月3日の雛まつりももうすぐですね!

そこで、今回は、東京都世田谷区岡本の小高い住宅地に静かにたたずむ静嘉堂文庫美術館と開催中の 「〜桐村喜世美氏所蔵品受贈記念〜岩ア家のお雛さまと御所人形 」展をご紹介しましょう。

丸く愛らしい顔立ちに品格のただよう、幼児の姿をした内裏雛(だいりびな)をはじめ、 子供仕立てに作られたお雛さま(稚児雛・ちごびな)の秀作に出会える展覧会です。

昭和初期、当時随一の京人形司・五世大木平藏(1886-1941)が、 三菱第4代社長の岩ア小彌太(1879-1945)・孝子夫妻のために製作した特別なお雛さまだとか。

ところで、静嘉堂文庫美術館は、三菱創業者として知られる岩ア彌太郎の弟で、第2代社長をつとめた岩ア彌之助(1851〜1908)と その息子で第4代社長の岩ア小彌太(1879〜1945)の父子二代にわたる蒐集品を収蔵・展示する美術館です。

静嘉堂(文庫と美術館)の所蔵品は、国宝7点、重要文化財84点を含む、和漢の古典籍およそ20万冊と東洋古美術品約6,500件から構成されています。 世界に3点のみ現存する国宝「曜変天目(稲葉天目) 」(中国・南宋時代)は、茶道具そして中国磁器の至宝として知られています。

静嘉堂創設百周年に際して現在の新館が建設され、1992年(平成4年)4月静嘉堂文庫美術館が開館しました。

国宝「曜変天目(稲葉天目)」をはじめとする所蔵品を、年間4〜5回の展覧会でテーマ別に公開しています。(常設展示はありません。)

現在開催されているのが、「〜桐村喜世美氏所蔵品受贈記念〜岩ア家のお雛さまと御所人形 」展。(2019年3月24日[日]まで)

早速取材してきましたので、ご紹介しましょう。

美術館へのアクセスは、バスが便利。東急田園都市線・大井町線の二子玉川駅バスターミナル4番のりばから東急コーチバス「玉31・32系統」で 「静嘉堂文庫」下車(所要時間は通常8〜10分。運行本数1時間に約3本)。案内標識に沿って徒歩約5分です。 (小田急線成城学園前駅下車、南口バスのりばから二子玉川駅行きバスにて「吉沢」下車。大蔵通りを北東方向に徒歩約10分)

「静嘉堂文庫」と表示のある正門からアプローチを進むと、武蔵野の面影を色濃く残すゆるやかな坂の先に趣きある洋風建築の静嘉堂文庫が見えます。

その左手に位置するのが静嘉堂文庫美術館。入口正面の「岩ア家のお雛さまと御所人形」展のポスターが出迎えてくれます。

受付で、チケットを購入、早速展示室に向かいましょう。

展示室入口では、2枚の大きな写真パネルが目に入ります。 一枚は、「岩ア小彌太本邸(麻布鳥居坂)での雛飾り」。岩ア小彌太の麻布鳥居坂本邸大広間での写真。 そして2枚目も同じ岩ア家雛人形の「桐村邸茂照庵(京都府福知山市)での雛飾り」です。

戦後、いつの頃かこの雛人形と雛道具は、岩ア家を離れ、散逸。しかし偶然この岩ア家の内裏雛と出会った京都福知山市の桐村喜世美氏が 段飾りの雛人形15体すべてと道具類を蒐集され、人形と道具類の多くが桐村邸でしばらく公開されていたそうです。

そして、2018年、この雛人形たちは、他の人形コレクションとともに静嘉堂に寄贈されました。それを記念して 今回の展覧会が開催されているというわけなのですね。

学芸員の方による列品解説もうかがってきましたので、ご紹介してゆきましょう。

展示室ではじめに展示されているのが江戸時代後期の「享保雛」。続いて江戸時代後期に江戸や京都で流行した 内裏雛(京雛)さらに江戸時代の内裏雛の様式を受け継ぎつつ近代的な洗練が加えられ、より写実性豊かとなった明治〜大正時代の内裏雛です。

内裏雛の変遷が少々分かったところで、続く「第1章 岩ア小彌太・孝子夫妻の雛人形」のコーナーに移りましょう。 いよいよ岩ア家雛人形が登場します。

内裏雛は、皇太子御成婚仕立て。皇室の有職故実に則った意匠で、本物のように高級素材で製作されています。 胴体は「三つ折れ」という木彫り胡粉塗りの裸体に関節を施した、立ち居自在の精巧な仕立てに作られています。

男雛は、皇太子だけが着用できる黄色の装束に立纓(りゅうえい)といわれる冠。女雛は、紅梅地に牡丹の丸文の表着。十二単の艶やかな衣装です。

人形の頭は、名人十二世・面庄による木彫り一品物。うつむき加減の頭の口から覗く歯一本一本も象牙で作られているなど 稚児雛のかわいらしさだけではない精緻な工芸美が随所にみられる魅力的な作品たちです。

内裏雛に仕える3人官女は幼児のような女雛より女性としての美しさがあります。たたずまいから中央の女性が一番の年長者でしょう。 美しい着物は、白振袖地文に刺繍がほどこされていて、色合わせが素晴らしいシックな衣装です。

五人囃子の着物は、2本線の染め抜きした装飾が入っています。 また、力が入る楽器を演奏している人形の顔がうっすらと紅潮しているなど細かいところまで表現されているのに驚きます。

貴人を警護する役割の二人の随身は、武官の装束を着ています。また、御所の仕丁(しちょう)と呼ばれる3人の下働きは、水干と呼ばれる庶民の着物を 身に付けています。

左から「泣き上戸」、「怒り上戸」、「笑い上戸」を全身で表現している人形の描写が秀逸です。

展示は、さらに岩ア家雛道具へと続きます。豪華な刺繍が精緻に施された着物が掛けられ、金具飾りのついた衣桁、 花菱紋の付けられた布団や座布団などの素晴らしい手仕事に感嘆するでしょう。

豪華な装束の織や染、刺繍、金工など繊細な工芸美が随所にみられる5世大木平蔵の代表作といわれる 岩ア家の雛人形をたっぷり楽しんだら、「第2章岩ア小彌太還暦祝いの人形〜木彫彩色御所人形58点の一大群像」のコーナーに進みましょう。

このコーナーで展示されている「木彫彩色御所人形」は、昭和14年(1939年)に還暦を迎える小彌太のために、孝子夫人が 「丸平大木人形店」に特注したものです。

頭が大きく可愛らしい御所人形スタイルで、七福神が鯛車曳き、楽隊、宝船曳き、輿行列、餅つきの子供たちに交じり、 卯年生まれの小彌太の還暦を祝う、総勢58体からなる組物です。人形たちのすべてがうさぎの冠を被り、岩ア家家紋の入る 衣装をまとっています。

そのうち、宝船に乗る布袋様は岩ア小彌太に、輿に乗る弁天様は孝子夫人に似せて作られたものといわれているそうです。

「木彫彩色御所人形制作時下絵」も展示されていて興味深いです。

最後に、「第3章 桐村家ご寄贈品と岩ア家の人形たち」で展覧会は締めくくられます。

桐村家ご寄贈品36体には、冒頭ご紹介した「享保雛」や「内裏雛」、「犬筥(いぬばこ)」、「武者人形」、「神武帝」、「御所人形」などの 優品が揃っています。特に「犬筥」は見所!

「犬筥」は、雌雄一対の伏せた犬をかたどった張り子製の容器で、魔除けや夫婦和合の象徴として江戸時代の婚礼道具の一つだったとか。

また、岩ア家の人形としては、丸顔が特徴の江戸時代後期の「立雛(次郎左衛門)」はインパクトがあります。現存する江戸時代の 雛人形でも最古の様式である立雛。なかでもこちらは、最大級の逸品だそうです。

そのほか、「市松人形」、「嵯峨人形」、「這子人形」、「能彫 梅若六郎能姿『羽衣』」も優品。

とりわけ「能彫 梅若六郎能姿『羽衣』」は、一木造りの傑作で、薄い扇や能面など超絶技巧がみどころです。

さらに、明るい南側ラウンジには、「重要文化財 色絵吉野山図茶壺」など展覧会関連の陶磁器の名品が展示されていますので、お見逃しなく!

窓からは、庭園の梅林がのぞめ、時には、遠く富士山を楽しめることもあるとか。

受付脇のミュージアムショップには、この展覧会で展示されている岩ア家の雛人形や木彫彩色御所人形など愛らしい人形たちの写真と 詳しい解説満載の図録が販売されています。また、ポストカード、ミュージアムグッズなども取り揃えられていますので、お立ち寄りになってはいかがでしょう。

さらに、休憩室も設置されていますので、美術館関連ビデオを見ながらサービスのお飲みもので一息入れることもできます。

地下1階ホールでは、人形製作の映像も放映されていますので、お時間があればご覧になるのもいいかもしれません。

3月の一日、静嘉堂庭園の梅の季節に、静嘉堂文庫美術館にいらしてみませんか?

「〜桐村喜世美氏所蔵品受贈記念〜岩ア家のお雛さまと御所人形 」展(2019年3月24日[日]まで)で 他にはない稚児雛の名品や「木彫彩色御所人形」など美術工芸の粋を集めた素晴らしい人形たちを 楽しむことができるでしょう。

雛人形と庭園の梅林が武蔵野の春を感じさせてくれるかもしれません。

また、静嘉堂文庫美術館では、2019年4月13日(土)から6月2日(日)まで「日本刀の華 備前刀」展が開催されます。 国宝 曜変天目 (「稲葉天目」)も特別出品されますので、まだご覧になっていない方、刀剣女子の方には特におすすめです。



参考文献:図録『〜桐村喜世美氏所蔵品受贈記念〜岩ア家のお雛さまと御所人形』
平成31年1月27日第1版
発行・編集  公益財団法人静嘉堂・静嘉堂文庫美術館







【赤ちゃん連れのお母様へ】
・静嘉堂文庫美術館はベビーカーで入館できます。
・おむつ替えは地下1階バリアフリートイレにおむつ替えシートがあります。
・ミュージアムの駐車場があります。
・庭園は足元が悪いので、だっこひものご用意をおすすめします。





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静嘉堂文庫美術館


静嘉堂文庫


「〜桐村喜世美氏所蔵品受贈記念〜岩ア家のお雛さまと御所人形 」展


「岩崎家雛人形」のうち内裏雛
五世大木平蔵製
桐村喜世美氏寄贈品

展示室会場風景
「岩ア家雛人形」のうち雛道具

展示室会場風景
奥:「木彫彩色御所人形」

「木彫彩色御所人形」のうち「輿行列」
五世大木平蔵製

展示室会場風景
中央:「立雛」(次郎左衛門頭)

展示室会場風景
左:「犬筥」
桐村喜世美氏寄贈品

展示室会場風景
左:「嵯峨人形 乙御前」
右:「市松人形」

ラウンジ風景

ミュージアムショップ



 



施設情報

静嘉堂文庫美術館

住所:東京都世田谷区岡本2-23-1 

TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)

開館時間:午前10時〜午後4時30分(入館は午後4時まで) ※展覧会期間以外は休館。常設展示無し。

休館日:毎週月曜日
(祝日の場合は開館し翌火曜日休館)。

入館料:
一般1000円、大高生700円
障害者手帳提示の方および同伴者1名700円
中学生以下無料

詳しくは、直接お問い合わせいただくか、
静嘉堂文庫美術館をご覧ください。

*取材協力・掲載許諾:
静嘉堂文庫美術館
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