アート&カルチャー


第178回 井の頭自然文化園 彫刻園
Inokashira Park Zoo, Sculpture Museum
(東京都武蔵野市) 



2021年が静かに明けました。

新型コロナ感染症第3波が猛威を奮う中、この年越しはステイホームの方が多かったのではないでしょうか。

そんな皆様に今年初めてお届けするアート&カルチャーは東京・武蔵野市に位置する「井の頭自然文化園」の敷地内にある「彫刻園」。

長崎の《平和祈念像》の作者として知られた彫刻家・北村西望(1884[明治17]年ー1987[昭和62]年)の作品と 制作活動の全容を紹介するミュージアムです。

今回は、前号の続き、動物園として親しまれている「井の頭自然文化園」になぜ彫刻園が併設されているのかというわけを ご説明することからご紹介を始めましょう。

北村西望は、1884(明治17)年長崎県で生まれました。17歳の時に制作した自宅隠居所の4枚の欄間の出来栄えが周囲の人々を驚かせたことを きっかけに彫刻家を志しました。

京都市立美術工芸学校、東京美術学校へ進学、それぞれを首席で卒業し、研究会「八手会」を結成するなどさらに研鑽を積み、 「逞しく、力感溢れる男性像」という独自の作品スタイルを確立します。 さらに終戦の1945(昭和20)年には、内部構造を木材で作り、 表面に石膏を盛り上げていく「石膏直付け法」を考案しました。

1950(昭和25)年、そんな北村西望に出身地長崎県から原爆犠牲者の冥福を祈る記念碑を造りたいとの相談を受けます。 西望は記念碑ではなく祈念像を提案、1951(昭和26)年 正式に彫像の制作を依頼されます。

そこで、西望は巨大な 《平和祈念像》を企画し、その制作のためのアトリエ建設の土地の借り受けを東京都に依頼します。 東京都が井の頭自然文化園の土地の使用を許可すると、その返礼として西望は、建てたアトリエと全作品を東京都に寄贈することを 申し出たそうです。

寄贈作品数は500点以上にのぼります。作家所有の石膏作品に加えて野外彫刻としてブロンズ作品をあらたに鋳造し、1958(昭和33)年、 井の頭自然文化園の一角に彫刻園が一般公開されたというわけです。

さて、現在彫刻園は、彫刻館A館と彫刻館B館、アトリエ館と野外彫刻群とから構成されています。

武蔵野の自然に囲まれ、静かに佇む充実の彫刻園、早速ご紹介してゆきましょう。

まずは西望の代表作、《平和祈念像》が展示されている彫刻館A館に向かいます。

彫刻館A館は、1945(昭和20)年から102歳で没するまでに制作された西望の作品が展示されています。

館内に入るとまず高さ9.7mの《平和祈念像》が展示室の中央でオーラを放っています。長崎の平和公園にいらした方は、 青銅製の《平和祈念像》を思い出すかもしれません。

その他A館では戦後の自由な制作活動の中で西望が制作した多様な作品が展示されています。

《平和を祈る》や《平和への出発》など平和をテーマとした作品、《不動明王》など仏教をテーマとした作品、《乙姫》や《浦島太郎》 などお伽話の主人公をテーマとする作品、また《伊東ドン・マンショ》や《若き日の織田信長》などの歴史上の人物をテーマとする作品も 展示しています。

天正遣欧少年使節のひとり伊東マンショはヨーロッパに渡り、ローマ教皇に拝謁した初めての日本人。《伊東ドン・マンショ》の石膏原型は 大分県庁に設置された銅像のための作品だとか。マンショの端正なたたずまいがその衣装などで繊細に表現されています。

また、一角には実際の家族をモデルにしたという《母子像》や《若き日の母親》なども展示されています。 たくましい男性像を得意とした西望の作風からは想像できない優しさにあふれた作品も観ることができるでしょう。

さて次に彫刻館B館に向かいましょう。

B館の外壁に沿って展示されている《怒涛》、《晩鐘》、《光に打たれる悪魔》と題する野外彫刻3点は必見です。

西望が世に認められる地位を築いた作品群です。《怒涛》は、文部省第9回美術展覧会(文展)で最高賞(1等なしの2等賞)を受賞。 これで受賞しなければ、郷里に帰ろうと決めていたともいわれている作品です。

《晩鐘》は、第10回文展で特選首席を受賞。また、《光に打たれる悪魔》は第11回で「推薦」という栄誉に輝きました。

彫刻館B館は西望が彫刻家を目指し、その才能を開花させた、終戦の1945(昭和20)年までに制作された作品群を展示しています。

《若き日の苦悩》、《アダム》、《師範代》など独自の男性像、また《山形有朋公騎馬像》など様々な騎馬像が展示。

さらに《猫‐防衛》は猫の緊張感漲る姿態が印象的な作品。お見逃しなく!

さて、彫刻園にはアトリエ館もあります。1953(昭和28)年に建てられ西望が平和祈念像制作の場として使用したアトリエです。

入り口脇では、《将軍の孫》と題する愛らしい作品が出迎えてくれます。

アトリエ館の吹き抜けの巨大空間では、素材別に彫刻制作のプロセスと、それぞれの彫刻技法を紹介していて興味深いです。

大型自動回転台には、《平和祈念像》1/4の雛形や内部構造、石膏像などが展示され、 「石膏直付け法」で制作された《平和祈念像》の制作技法を分かりやすく紹介しています。

中型自動回転台には、《浦島ー長寿の舞》が展示。また、《加藤清正公》や、《平和の女神》とその内部構造も観ることができます。

また、アトリエの内部空間は、西望が制作に使用した木芯の切れ端を集めて作ったオシャレな「寄木装飾」が壁面を飾っています。

ビデオ視聴コーナーには実際に西望が使っていたというテーブルと椅子も残されています。

一角には、「文化園の彫刻」と題する西望自筆のメッセージや彫刻につかわれていた器具なども展示されています。

アトリエ館はまだまだ見どころ満載!

さて西望の作品は展示館内に設置されているだけではありません。

武蔵野の緑豊かな園内に点在する野外彫刻群も魅力です。

緑の林を背景に疾走する馬上から弓を射る《若き日の織田信長》、雑木林を背に屹立する《加藤清正公》、 ツバキ園の花を背景にしたライオン像《咆哮》、彫刻館B館前の紅葉に包まれた《聖観世音菩薩》など 展示室内で鑑賞する彫刻とは一味違うニュアンスのある彫刻の楽しみ方ができるでしょう。

とりわけコロナ禍では、貴重な癒しのアートスポットです。

彫刻園には38点もの野外彫刻が点在していますので、三々五々巡ってみるのも楽しいことでしょう。

バラエティ豊かな彫刻作品がご家族で楽しめる井の頭自然文化園彫刻園は当初2021年1月13日から開園するということでしたが、 都内の状況を鑑み、2021年2月7日(日)まで臨時休園することとなりましたのでご注意ください。 (新型コロナウイルス感染症拡大防止対応のため2021年2月7日(日)まで臨時休園、2月8日(月)は通常休園)

2021年2月9日(火)に再開園された暁には是非お出かけくださいね。

武蔵野の自然を楽しみがてら四季折々お出かけになるのもおすすめです。







【赤ちゃん連れのお母様へ】
1. 授乳室は、動物園(本園)管理事務所内に1か所あります
2. お湯・電子レンジをご利用の方は、動物園(本園)管理事務所にお越しください。
3. おむつ替えシートは、動物園(本園)6か所のトイレ、水生物園(分園)の2か所のトイレにあります。
4. 子ども用トイレは、動物園(本園)の5か所のトイレ、水生物園(分園)の2か所のトイレにあります。
5.専用駐車場はありませんが、正門から約300mの有料駐車場「井の頭恩寵公園第一駐車場」が利用できます。







このコーナーでは、お子様連れで楽しめる皆さまお気に入りの ミュージアム情報を募集しています。 お問い合わせフォームから、是非お寄せください。
また、このコーナーへのご意見・ご感想もお気軽にお寄せください。 お待ちしております。



 

井の頭自然文化園 彫刻園
彫刻館A館

《平和祈念像》
1954年 石膏

《伊東ドン・マンショ》
1975年 石膏

《若き日の母親》
1984年 石膏

彫刻館B館横
左:《光に打たれる悪魔》1917年 
中央:《晩鐘》1916年
右:《怒涛》1915年

《猫ー防衛》
 1926年 石膏
          

アトリエ館

アトリエ館 展示風景


《若き日の織田信長》
1970年 石膏

《加藤清正公》
1960年 ブロンズ

《聖観世音菩薩》
1975年 アルミニウム






施設情報


井の頭自然文化園 彫刻園

住所:東京都武蔵野市御殿山1−17−6

TEL:0422-46-1100 

開園時間:午前9時30分〜午後5時
(入園は午後4時まで)

休園日:
毎週月曜日(祝日・都民の日に当たる時は翌日)
年末年始(12月28日〜1月1日)
*2020年12月26日(土)から2021年1月11日(月・祝)まで臨時休園*

入園料: 一般/400円、中学生/150円、65歳以上/200円
◆小学生以下、都内在住・在学の中学生は無料 (中学生は生徒手帳を要提示)
◆65歳以上の方は年齢を証明するものを要提示

詳しくは、直接お問い合わせいただくか
井の頭自然文化園をご覧ください。

*取材協力・掲載許諾:
井の頭自然文化園
ダウンロード不可
禁無断転載