My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)

11.ラ・ロッシュ・ギヨン (La Roche Guyon)


【はじめに】

ラ・ロッシュ・ギヨン (La Roche Guyon)は、パリから約80kmのセーヌ川に沿ったイ ルド・フランス地域圏の最西北端に位置する、人口約550人の小さな村で「フランスの最も美しい村(Les plus beaux villages de France)にも登録されています。

Les plus beaux villages de France site official
http://www.les-plus-beaux-villages-de-france.org/

隣接するノルマンディー地域圏に位置する、モネの庭のあるジベル二ー (Giverny)からは約10kmあまりです。

ラ・ロッシュ・ギヨンは、セーヌ川にそって距離にして1kmほどで、面積4.8kuの河岸低地に佇む、コロンバージュ(Colombage:木組み格子建物)の美しい家並みが続く村です。

<ラ・ロッシュ・ギヨン城からの村>


村は、紀元前に石灰質岩の断崖に横穴の住居が掘られ人々が住み始めたことに起源します。

【戦乱の歴史】

ラ・ロッシュ・ギヨンは、古来セーヌ川河口のル・アーブルとパリをはじめとする内陸との間に物資を運ぶ水運の中継地として、又断崖からの眺望を活かした軍事上の要所として発展します。

4世紀には、断崖上に小さな見張砦が築造され、12世紀には、ラ・ロッシュ(Les Seigners de la Roche 年譜不明)により今日見られる円筒形をしたドンジョン(Donjon:天守塔)が築かれます。


<ラ・ロッシュ・ギヨン城とドンジョン>


ラ・ロッシュにより13世紀にこのドンジョンの真下にマナーハウス(館)が築かれ、この地を統治し税の 徴収を行う一方、セーヌ川の浚渫や築堤工事などに農業などの事業にも力を注いでも います。

しかし、幾度もの戦乱に見舞われた村でもあります。

フランスでの王位継承権や領有権をめぐる争いで、イギリスのヘンリー5世(Henry V 1387 - 1422年)と連携したブルゴーニュ公を中心とするブルゴーニュ派と、オル レアン公を中心としたアルマニャック派が戦うこととなった百年戦争 (1337-1453年) で、領主のラ・ロッシュは、アルマニャック派のフランス諸侯軍として参戦します。

しかし、1415年の「アジャンクールの戦い」でヘンリー5世率いるイギリス軍に大敗 し、多くのフランスの諸侯と共にラ・ロッシュも捕虜となります。

こうした戦況より一時 ラ・ロッシュ・ギヨンの城と館は、1419年イギリス軍に占領 されますが1449年に再びラ・ロッシュ(Guy Z de la Roche)により奪還されます。

その後、ラ・ロッシュ家に男子継承者がいなかったことから、娘の婚姻等により相続 権がロアン家へそしてリアンクール家へと移ります。

1659年には、ロシュフコー家の所領となり受け継がれ、18世紀に今日見られる果樹 や野菜に草花(ハーブ)などを植栽した整形式のポタージェ(Potager:果樹野菜庭園)が 館の前に造営されます。


<ラ・ロッシュ・ギヨン城からの雨のポタージェ>


第二次世界大戦(1939-1945年)では、ドイツ軍の侵攻を受け占領されラ・ロッシュ・ ギヨン城にエルウィン・ロンメル(Eugen Rommel 1891- 1944年)将軍の駐留するノ ルマンディー地方総司令部が置かれたことから、味方である連合軍からも爆撃を受 けるといった戦火にみまわれています。

ロンメル将軍の戦況の見誤りや失策などもあり、連合軍が1944年6月6日のノルマン ディー上陸作戦に勝利し、結果ドイツ軍は、フランス戦線から撤退することなり、アド ルフ・ヒトラー( Adolf Hitler 1889 -1945年)自殺の引き金になったといわれています。

ヒットラーは、1945年4月30日 ベルリンの総統官邸地下壕で妻のエヴァ・ブラウン (Eva Braun 1912 -1945年)と共に自殺し、1945年5月8日 ドイツの無条件降伏によ り終戦をむかえています。


【セーヌ川と大地に微笑む静かな村】

現在のラ・ロッシュ・ギヨンには、百年戦争や第二次世界大戦の戦乱に見舞われた事 などなかったような静かで穏やかな時間が流れています。

村の高台からは、地平線まで丘陵の緑と麦畑が広がりその間をセーヌ川がとうとうと 流れる景観がひらけています。

セーヌ川と大地に微笑みかけるような静かな村ラ・ロッシュ・ギヨンは、私の好きな 場所でもあります。

又、この地を訪ねる旅は、戦乱を乗り越え村を守り歴史を継承してきた人々に、尊敬と親 しみを覚える旅でもあります。

【参考図書.他】
・「フランスの美しい村を訪ねて」辻啓一 著 角川書店 (2004年)
・「フランスの中世社会」渡辺節 著 吉川弘文館 (2006年)
・「Michelin Green Guide(France)」
 Michelin Travel Publications(1993年)




【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

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ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
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