My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)

20.カルモナ(Carmona)


【はじめに】

カルモナ(Carmona)は、セビーリャ(Sevilla)からコルドバ(Cordoba)へ向かう高速国道A-4(アンダルシア自動車道)で約40kmの距離にあって車で1時間ほどです。

カルモナは、アンダルシア地方を横断し大西洋に注ぐ、ベティカ山系(Sistema Betica)を源とする全長657kmのグアダルキビール川(Rio Guadalquivir)流域の肥沃なカルモナの平原に位置し、中世の面影をとどめる旧市街地は平原の高台にあります。

夏この平原には、スペインを代表する景観である地平線にまで咲き誇るヒマワリの花でうめつくされます。

カルモナは、豊穰の地がもたらす豊かさにより紀元前から栄えた古都で、現在人口約25,000人の農業と工業に観光を主な産業とする街です。

<地平線からのカルモナの平原の夜明け>



【古代から栄えた街カルモナ】

紀元前218-202年には、カルタゴとの戦争に勝利した古代ローマ帝国が、この地を平定し造幣所をもうけコインが鋳造されてもいます。

そして、ローマ時代の円形闘技場(Arena Redonda)跡やネクロポリス(Necropolis)と呼ばれる共同墓地の跡も残っています。

カルモナには、ローマ街道の一つであるビア.アウグスタ(Via Augusta)が通り栄えます。

:ビア.アウグスタ(Via Augusta)
  ビア.アウグスタは、フランスのピレネー山脈を越えかつてのアウグスタと
  カルモナを通りカディスに至る約1,500kmの中世の主要幹線道路で、
  カディスから船でローマまで物資が運搬されていた街道です。

又、この時代の都市計画により現在の旧市街地にあたる街の外郭が整えられ、街への入り口となるセビージャ門とコルドバ門は、今日も当時の面影を留めています。


【ペドロ王の宮殿】

カルモナは、フェニキア人.カルタゴ人.ローマ人.をはじめイスラム教.カトリック教などのいくつかの民族や宗教による支配の変遷の後、約500年間続いたイスラム教徒の領有地であった一帯を1248年にカトリック勢力を背景とするカスティーリャ王国のフェルナンド3世(Fernando:V1201-1252年)が奪回し統治します。

そして、14世紀にフェルナンド3世の曾孫でカスティーリャ王国を継承する、ペドロ1世(Pedro I:1334-1369年)が、荒廃していたカルモナのマルチェナ(Marchena)門の要塞をドン.ペドロ王の宮殿(Alcazar del Ray Don Pedro)とし改修します。

この宮殿は、軍事的.政治的目的を意図する宮殿としてだけではなく、政略結婚からのがれ愛妾マリア・デ・パディリア(Maria de Padilla:1334-1361年)との安住の住居としたペドロ王の宮殿でもありました。

<カルモナ旧市街地からのサンタ.マリア教会>


ペドロ1世は、イスラム文化の素晴らしさに魅せられた一人で、よき理解でもあり保護にも勤めています。

そして、セビーリャのアルカサル宮殿とカルモナのドン.ペドロ王の宮殿の改修にあたり、スペイン各地からイスラム建築の職人や彫刻家などを集めムデハル建築様式(Estilo Mudejar)を代表する傑作として、グラナダのアルハンブラ宮殿を優る建築を目指したと言われています。

:ムデハル建築様式(Estilo Mudejar)
  スペインの建築様式の一つで、レコンキスタの後イスラム教の建築様式と
  カトリック教の建築様式が融合して生まれた建築様式。

<かつての城塞からのパラドール.カルモナ>


この宮殿には、スペイン王国を築いたカステリーア王女イザベル1世(1451-1504年)とアラゴン国王フェルナンド2世(1452-1516年)が、イスラム.ナスル王朝の首都グラナダ奪還にむかう際に滞在しています。

(フェルナンド2世は、アラゴン国王とし在位しますが、カステリーア国王フェルナンド5世としても1471-1504年まで在位します)

又、天正年間の1582-1590年にかけてキリシタン大名の大友宗麟.大村純忠.有馬晴信の名代として、ローマに派遣された4名の親善少年使節(天正遣欧少年使節)が滞在しています。

そして、慶長年間から元和年間の1613-1620年にかけて仙台藩主伊達政宗がメキシコ.スペイン.ポルトガルに派遣した支倉常長をはじめとする180余人の外交使節団(慶長遣欧使節団)らもこの宮殿に滞在しています。


【スペインを代表するパラドール】

ペドロ王の宮殿は、16世紀の覇権争いや地震により荒廃します。 しかし、19世紀に中世のムデハル様式を基調に復元された国営宿舎パラドール(Paradore)とし再建されます。

<かつての宮殿の姿をとどめるパラドール.カルモナ>


スペインを代表するパラドール.カルモナは、現在スペイン国内の93をかぞえるパラドールの中でも、中世の面影をとどめる人気の高い宿泊施設となっています。

アンダルシアの地平線のかなたにまでひろがるパラドール.カルモナからの景観は、様々な歴史の出来事を彷彿とさせてくれます、そして悠久の時間を実感させてくれる私の好きな場所でもあります。

【参考図書】
・「南スペイン.アンダルシアの風景」川成洋.坂東省次 編 丸善(2005年)
・「Carmona」カルモナ観光パンフレット(2009年)
・「図説 スペインの歴史」川成洋 著、宮本雅弘 写真 河出書房出版(1999年)





【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

新連載「My Favorite Travels And Places(私の好きな旅と場所)は
ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。