My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)

26.ロンダ(Ronda)


【はじめに】

今回は、スペイン南部アンダルシア州内陸の白い街ロンダ(Ronda)を訪ねます。

ロンダは、世界で最も美しい街の一つと言われています。

そして、スペインを代表する観光地でもあります。

セビージャから約150km.マラガから約100kmで、前回訪ねますグラサレマから約25km車で約40分ほどの距離にあります。

グラサレマ山脈と二エベス山脈との間を流れるグアダルビン川の浸食によって出来た深さ約120mの断崖絶壁上にひろがる絶景の白い街です。

街は、この峡谷により古代ローマ時代からイスラム時代に築かれた旧市街地街と、 レコンキスタ以降に築かれた新市街地に二分されています。

しかし現在、ローマ時代に築かれたローマ橋(Puente Romano)とイスラム時代に架けら れたビエボ橋(Puente Viejo:旧橋)に、1793年に完成したヌエボ橋(Puente Nuevo:新橋) により結ばれ一つの街となっています。

<ロンダの街を二分しているグアダレビン狭谷>

<ロンダの景観を代表するヌエボ橋(Puente Nuevo:新橋)>



そして、作家や芸術家達を魅了してきた街でもあり、近代闘牛発祥の地でもあります。


【作家や芸術家達を魅了した街】

ロンダを訪れた著名な詩人や文豪達に次の人々が上げられます。

・ライナー.マリア.リルケ(Rainer Maria Rilke:1875-1926年)
  :オーストリアの詩人.作家。
  :ロンダで「スペイン三部作」を残しています。

・アーネスト.へミングウェイ(Ernest Hemingway:1899-1961年)
  :アメリカの小説家。
  :「誰がために鐘は鳴る」「日はまた昇る」などスペインや闘牛を
    題材にした作品を残しています。

・東郷青児(1897-1978年)
  :柔らかな曲線と色調により美しい女性像を描いた洋画家。
  :1967年に地中海沿岸を旅行し、この時ロンダを訪ねています。

・オーソン.ウェルズ(Orson Welles:1915-1985年)
  :アメリカのハリウッドを代表する映画監督.脚本家.俳優。
  :映画「市民ケーン」の監督.製作.脚本.主演や映画「第三の男」
   のハリー・ライム役の俳優として知られています。

新市街地の闘牛場の西側には、この街に永く滞在したヘミングウェイとオーソン.ウェズにちなみ、彼らの名前がつけられた遊歩道が整備され、市民や観光客の憩いのプロムナードとなっています。
(Paseo de Hemingway & Paseo de Orson Welles)

又、スペインの画家であるフランシスコ・ゴヤ(Francisco Jose de Goya :
1746-1828年)やパブロ・ピカソ(Pablo Picasso:1881-1973年)も、ロンダや闘牛を題材とした絵画や版画などの作品を残しています。


【闘牛の起源】

闘牛の起源には諸説があります。

先史時代の、スペイン北部アルタミナ洞窟(Cueva de Altamira)やグラサレマ近くのピレタ洞窟(Cueva de Pileta)等の壁画には、野牛などの狩猟の様子が描かれ、人(生活)と牛との係わりが残されています。

これらの壁画に描かれる野牛は、今日闘牛に登場する雄牛の直系種であることが、近年の研究により立証されていることなどから、この時代の狩猟が闘牛の起源であると言える かもしれません。

又、紀元前ギリシャ時代の神に牛を生贄とし奉納する宗教的儀式が闘牛の起源とする説や、ローマ時代にコロッセオ(闘技場)で人と猛獣とを格闘させたことが起源であるとする説などもあります。

最も今日の闘牛に近い説として、中世のスペインやポルトガルの王族貴族達の間で行われていた、騎馬上から野牛を槍で突く武術鍛錬をかねた狩猟があげられています。

1572年にスペイン.アラゴン国王のフェリペ2世(Felipe II:1527-1598年)は、この武術鍛錬を取り入れた国の軍事教練の一環として、王立ロンダ騎士養成学校を設立してもいます。

この王立ロンダ騎士養成学校で、馬術と教育を受けた貴族や上流階級の子弟により騎馬隊が編成され、その後のフランスとの独立戦争などで活躍したことなどから、乗馬がスペインの伝統とも誇りともなっています。

17世紀中頃に、こうした武術鍛錬がレホネオ(Rejoneo)と呼ばれる騎馬闘牛として定着する一方、興行とし一般公開もされるようになり、今日の闘牛の起源となったと言われています。


【伝説の闘牛士 フランシスコ.ロメロとその一族】

1698年ロンダで、貴族が騎馬闘牛で野牛を槍で突く遊戯中に、角で突かれ落馬し牛が襲いかかります。

その時一人の男性が、何度も襲い掛かる牛を持っていた帽子をムレータ(牛士が使う赤い布)のごときにかざし、立ちはだかり牛を何度もやり過ごし貴族を救い民衆に拍手喝采を受けます。

この男性が、近代闘牛を生んだ伝説の闘牛士フランシスコ.ロメロ(Francisco Romero)だったと言われています。

その後、息子のファン.ロメロ(1722-1776年)や孫のペドロ.ロメロ(Pedro Romero:1754-1839年)により闘牛が継承され、貴族から民衆までもが楽しむことのできる闘牛に発展させ、人気が高まりスペインをはじめスペイン圏にひろまります。

1785年には、スペインで最も古い5000人を収容する木造2階建てのネオ.クラシック建築様式のロンダ闘牛場が完成します。

<1785年に建設されたロンダ闘牛場>

<ネオ.クラシック建築様式のロンダ闘牛場>




【異文化の魅力を秘めた街ロンダ】

ロンダは、スペイン最古の闘牛場に闘牛博物館をはじめ、闘牛をテーマとした装飾店やレストランが立ち並ぶ闘牛の街と言えます。

生と死、人と牛とが命をかけて向かい合い、神にささげる神聖な儀式でもあり芸術であるとも言われる闘牛は、我々東洋人にとって、少々難解な伝統であると言えます。

又、狩猟民族と農耕民族がそれぞれに築いてきた文化の違いを、鮮烈に実感させられるものの一つがあるとも言えます。

しかし、牛(自然)を糧とし、牛(自然)と戦い、牛(自然)に感謝し、牛(自然)を尊敬し、 牛(自然)を崇め祈る姿には、共感も覚えます。

歴史と絶景の中に広がる闘牛の街ロンダは、異文化の魅力を秘めた私の好きな場所でもあります。


【参考図書】
 ・地球の歩きかた「スペイン」 ダイアモンド社 (2010年)
 ・「スペイン」増田義郎監修 新潮社 (1998年)
 ・「Ronda in Focus」Ronda2000,S.L.出版 (2000年)
【引用図書】 
 ・「パラドール紀行-第16回ロンダ」イベロジャパン (2006年)





【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

新連載「My Favorite Travels And Places(私の好きな旅と場所)は
ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。