My Favorite Travels And Places
(私の好きな旅と場所)


32.バレン(The Burren)
その1. プールナブローンの巨人のテーブルとバレンの妖精

【はじめに】

今回は、ヨーロッパで最も大きなカルスト(石灰岩)台地と言われるアイルランド西部のクレア州(Clare County)に広がるバレン(The Burren)を訪ねます。

バレンのプールナブローン巨石墳墓遺跡(Poulnabrone Megalithic Dolmen Tomb)までは、ゴールウェイ(Galway)から南に約60km、車で2時間ほどの距離に位置しています。

<バレンの位置>


<バレンの主な街と史跡>


<グレガンズ.キャッスル.ホテルからのバレンのカルスト台地>



バレンは、ケルト語(ゲール語)の岩の多い場所と言う意味のブエレン(boireann)に由来し、ゴールウェイ湾の海岸にそってバレン(Burren).バリーヴォーウハン(Ballyvaughan).ドゥーリン(Doolin)らの村から内陸のキルフェノーラ(Kilfenora). コルフィン(Corofin).南部のエニス(Ennis)に至る約360kuの地域を総称する名称で、面積1500haに及ぶバレン国立公園(The Burren National Park)の全域を包括しています。

自然豊かなで風光明媚な景勝地バレンを3回に渡り探訪します。

・その1. プールナブローンの巨人のテーブルとバレンの妖精

・その2. アーウィーの洞窟(Aillwee Cave)

・その3. バレンの生き物(植物と動物)


【バレンの起源.歴史.自然】

この地域の地質は、約3億5900万年前から2億9900万年前の石炭紀に築かれた石炭岩を基盤とし、珊瑚礁やアンモナイト.ウニ.ウミユリ.貝類等の海洋生物が海底に堆積しできた炭酸カルシュウムが、長い時間と海の水圧により泥板岩と石灰岩の堆積岩層を形成します。

その後、約2億6000万年前の地殻変動により海底が隆起し、バレンの陸域や対岸のアラン諸島の島々が生まれます。

<バレンの石灰岩台地>


<アラン諸島イニュシュモア島の石灰岩台地>



イギリスが宗教的.政治的な覇権のため1649年にオリバー・クロムウェル (Oliver Cromwell:1599年-1658年)を総司令官兼総督としアイルランドに侵攻した時、各地で虐殺を繰り返したクロムウェルが「バレンには、人をつるす木もなく、溺れさせる水もなく、生き埋めにする土もない・・・・」と評し、不毛の地であるとした言葉を残したことは良く知られています。

しかし、不毛の地と言われたバレンにも、カルスト(石灰岩)台地の幻想的な景観をはじめ、先住民族が残した巨石墳墓遺跡(Megalithic Dolmen Tomb)に、1940年に発見されたアーウィーの洞窟(Aillwee Cave)等多くの史跡等が見られます。

アイルランドの全面積の0.5%に満たないバレンに、アイルランド固有の植物の約70%が生息する自然があることも知られるようになり、世界中の人々を魅了する自然豊かな地となっています。


【巨石墳墓遺跡】

アイルランドには、紀元前の先住民族の足跡を留める多くの巨石遺跡や墳墓が点在して見られます。

そして、バレンにも紀元前7000年頃の新石器時代に移動しながら小規模な農耕を営なんでいた先住民族の足跡が残されています。

バレンのカルスト(石灰岩)台地の中で最も象徴的なプールナブローンの巨石墳墓遺跡(Poulnabrone Megalithic Dolmen Tomb)は、1980年の放射性炭素年代測定等による科学的調査と研究により、紀元前約4200-1423年にかけて築かれた特権階級の家族又は一族の墳墓であったことが確認されています。

墳墓からは、石斧.水晶.動物の骨で造られたペンダント.武器.食器等とともに22体の大人と産まれて間もない赤ん坊を含む6体の子供の遺体が埋葬され、その人骨が発見されています。

この墳墓は、その形から巨人のテーブルと呼ばれ、ケルト語(ゲール語)のドルメン(dolmen)が石のテーブルを意味することに由来しています。

墳墓そのものあるいは墳墓への入り口を象徴するものとされています。

<テーブルのように見えるプールナブローンの巨石墳墓遺跡>





<ケルト語(ゲール語)に由来する「巨人のテーブル」>



バレン高原には、その他石灰岩が積まれた大小80数箇所の墳墓が確認もされています。


【バレンの妖精】

アイルランドには、石などで積まれた環状の砦リング.フォート(Ring Fort)と呼ばれる先住民族やその後のケルトの人々が生活をした住居跡約2500箇所が確認されています。

そして、バレン高原にも環状に二重や三重に石灰岩が積まれた住居跡としての砦リング.フォート約500箇所が確認されています。

砦は外敵からの防御や寒風を防ぐとともに、地下通路で砦と砦が結ばれていたことから食料貯蔵庫や避難通路等としても使われていたと考えられています。

ケルトの人々がこの環状の砦リング.フォート(Ring Fort)を生活の場とすると共に、妖精の世界への入り口だと信じられたことから、妖精の砦フェアリー.フォート(Fairy Fort)と呼ばれるようになり、妖精の宿る場所として語り継がれ多くの妖精伝説も生まれています。


【不毛の地に宿る妖精】

紀元前からその名の示す岩の多い場地とされ、中世にクロムウェル率いるイギリス軍がアイルランドに侵攻した時にも不毛の地と言われたバレンは、はるか数億年以前からの地球の営みがみられ、石器時代から先住民族の生活の足跡も残されています。

そして、不毛の地とされたバレンに妖精が宿る場所としたケルトの人々にとっては、自然への尊厳の思いと厳しい自然環境の中で生きてゆくための生活の知恵でもあり、優しさでもあったのだと思います。

妖精が宿り妖精伝説が語り継がれるバレン、石灰岩の広漠たる高原で妖精に出あえそうなバレンは、私の好きな場所でもあります。


<妖精の砦の現況と復元予想図>





【参考図書・引用図書】

・地球の歩きかた「アイルランド」 ダイアモンド社(2010年)
・「旅」(アイルランド美しき旅) 新潮社(2009年)
・「The Burren & The Aran Islands」Tony Kirdy 著
  The Collins Press(2010年)
・アイルランド政府公式ウエブサイト(2012年)
・The Burrun Ballyvaughan A Ramblen's Guid and Map(2010年)






【作者プロフィール】
相馬正弘(そうままさひろ)
・京都市出身
・設計事務所を開設し、地域計画.都市計画.公園計画を中心に活動中
・大学の講師として後進の指導も
・趣味は、旅行.テニス

新連載「My Favorite Travels And Places(私の好きな旅と場所)は
ケータイ・サプリwebマガジンのための書き下ろしです。
使用されている写真の著作権は相馬正弘さんと記載されている方にあります。